第63回 家族に知っておいてほしいケアについて

終末期がん患者さんにとって家族と過ごす時間はかけがえのないものです。「わが家の特室(寝室)でとても優秀な看護師(奥様)が専属でいてくれるんです!」と笑顔で言って下さった患者さんもいました。家族の関わりや細やかなケアによって、患者さんは心身ともに心地よく過ごすことができます。家族にとっては特別ではないあたりまえの日常の営みが、実は患者さんからのかけがえのない贈り物であることを知る機会となります。

Q .在宅ホスピスにおいて家族ができるケアを教えて下さい

①自分で自分のことができなくなったとき

病気の進行に伴い、患者さんは足に力が入らなくなったり、動けなくなったり、昨日まで出来ていたことができなくなる辛さが出現します。この様な時、家族の皆さんは「明日になれば元気になるさ」といった励ましを言いたくなり  ますが、それはこらえて、そっと寄り添い、患者さんが自分でできない部分だけを援助するように心がけましょう。

②薬が飲みにくくなったとき

ヨーグルトやお薬ゼリーなどに混ぜて小さなスプーンにのせて飲んでみると飲みやすいことがあります。服用が大変な時には無理をせず、医師・看護師に相談しましょう。

③水分が飲みにくくなったとき

以下のようなことを試みて下さい。
・ストローが吸えないときはストローを短くしてみる
・コップの口が広いものにして鼻が当たらないよういしてみる
・吸いのみやベビー用マグカップなどを試してみる
・飲むゼリーや増粘剤などを少量加えてみる
・ストローをスポイトのようにして口に垂らす
・スプーンで少量ずつ介助してみる
・氷を口にふくむ

suinomi  吸い飲み   mug   ice  氷

④口の中をきれいにすることができないとき

患者さんは徐々に唾液の分泌が低下し、口の中をきれいに保つ力が弱くなります。以下のことをやってみましょう。
・ベッド上でもできるように洗面器や小さなボールなどを利用してブラシをかけ、ゆすぐ
・スポンジブラシなどを使用する
・口内の乾燥には保湿剤などで保護する。唇の乾燥にはリップクリームやワセリンなどで保護する
・飲み込めない唾液は、顔を横向きにして口から出しやすい姿勢をとる
・口の中でネバネバする時は、軽く湿らせたスポンジブラシやティッシュペーパーなどで、巻き取るように取り除く
sponge スポンジブラシ  tube  006口腔ケアブラシ

⑤寝がえりができず、同じ姿勢が辛い時や床づれを予防する必要があるとき

患者さんは病状によって、例えば右側に傾いた体位しかとれないことがあります。同じ姿勢を長い時間続けると、循環が悪くなったり、身体が凝ったりして、痛みを感じることさえあります。そのような時は、やさしくゆっくり手足 の関節を曲げ伸ばして、筋肉の緊張をゆるめ、無理のない体位を作りましょう。小さなクッションや枕、ビーズクッション、バスタオル等で日中は2~3時間位を目安に患者さんが楽そうなポジションを工夫します。患者さんが楽にな る体の向きを見つけ、ほんの少し体の位置をずらしたり、下着のシワを伸ばすだけでも楽になることがあります。
この様な時、硬さの調整可能なエアマットを使う方が良い場合がありますが、上記を含め、状態に合ったケア方法を看護師に指導してもらいましょう。

⑥声が小さくなって家族を呼べない、お話ができなくなったとき

手は使えるけれど、声が出づらくなり、人を呼べない時は、呼び鈴やワイヤレスの室内ベルなどをコールとして使うと良いでしょう。後者は生活用品店や家電量販店などで売っています。お話ができない時は、「お水?」「寒い?」 「体の向き変える?」など具体的に尋ねると声が出なく首ふりやうなずき、瞬きなどの反応で確認ができます。「痛い?」「苦しいの?」等とつらさを繰り返し尋ねると患者さんはこれからそうなっていくのかと不安になってしまうか も知れないので気をつけましょう。

⑦患者さんからの特別なサインを感じたとき

患者さんが自分の葬儀のことを話したり、気がかりなこと、感謝のことばを口にしたりすると、聞いた方はビックリして、「そんなこと言わないで」とか「元気になるから大丈夫」などとその場しのぎの返答をしてしまいがちです。 しかし、そのようなことは患者さんが意を決して伝えようとしていることが多く、患者さんの言うことを否定しないで何を言いたいのかしっかり聴くように心がけましょう。また、手をつないでほしいとか、傍にいてほしいなど普段し ないような要求があったら、それは患者さんからの特別のメッセージですから、あわてて拒否せずに贈り物を受け取るように大切に、ゆったりと接しましょう。
田中ひとみ(緩和ケア認定看護師)

第62回 レスパイト(家族の休息)

 家族にとってがん患者さんを自宅でケアするということは楽な面もありますが、長期になってくると、患者さんの病状によっては十分に休息できないこともあり、緊張も続くことから心身共に疲弊してきます。家族にも休息が必要なのです。家族の一時的な休息のためのケアあるいはサービスをレスパイトと呼びます。

Q. 家族のレスパイトの方法にはどのようなものがありますか?

 患者さんの病状あるいは症状が落ち着いている場合は、介護施設におけるショートステイサービスが使えるでしょう。
 患者さんの症状が不安定で何らかの医療的な関わりが必要となることが予想される場合には、介護施設でのショートステイは難しく、一時的な入院が必要になるでしょう。緩和ケア病棟の役割にはレスパイト入院も含まれますので、地域に緩和ケア病棟がある場合には相談してみると良いでしょう。また、以前治療をしていた病院の地域連携室などに相談してみるのも良いかも知れません。
 ケアをしている家族が数日あるいは週単位のお休みをとるのは難しくても、毎日のケアの中でちょっとした休息の時間や気分転換の時間を作ることも必要です。そのために訪問看護師やヘルパーの訪問の時間やボランティアが訪問している間に家族に息抜きの時間を過ごしてもらうといったことも可能です。
 このようにいろいろな工夫をしてケアをしている家族の疲労を回復することが患者さんが在宅で過ごす時間を長くすることに繋がるのです。

前野 宏

第61回 大切な方と別れる悲しみ(悲嘆)とそのケア

 大切な方とのお別れの前後の時期の悲しみを悲嘆(グリーフ)と呼びます。患者さんが亡くなる前に残される方が経験する悲嘆を予期悲嘆と呼びますが、ここでは患者さんが亡くなった後の死別後の悲嘆についてお話しします。

Q.悲嘆反応にはどのようなものがありますか?

 以下のような反応が出ることがありますが、基本的にはこれらは正常な反応であると考えて良いでしょう。

1. ショック  
2.混乱    
3.不安    
4.怒り    
5.後悔と懺悔 
6.悲しみ   
7.抑うつ   
8.身体の不調 

Q.悲嘆に対してどのように向き合えば良いですか?

 悲嘆は正常な反応ではありますが、深い悲しみからできるだけ早く立ち直るに越したことはありません。立ち直るプロセスは人それぞれですが、以下のようなことが助けになるかも知れません。

・悲しみの体験を知る…本を読む、講演会に参加する。悲嘆が自然な反応であることを知るだけでも少し安心できます。
・気持ちを話してみる…感情を抑え込むことでかえって悲しみが深くなり身体に影響を与えかねません。周囲の人に話を聴いてもらうことも大切です。
・遺族会などに参加してみる…同じ体験をした人と語り合う機会は、悲しみを理解するだけではなく孤独感を和らげてくれることもあります。
・気持ちを書いてみる…日記やノートに思いを書きとめると気持ちが少し整理されることがあります。
・身体によいことをしてみる…ゆっくり休養すること、栄養をしっかり摂ること、軽く身体を動かすことなど生活のリズムを安定させることが心の回復にも役立ちます。
・専門家に相談してみる…悲しみが非常に長く深く続く場合、日常生活にも影響を与える場合は心療内科など専門家に相談することも大切です。
・周りの人の助けを受け入れる…周りの人が何か助けになりたいと思っていることがあります。全てを一人で抱え込まず、時には周囲の人に頼ることも必要です。

Q.悲嘆のケア(グリーフケア)の具体例を教えて下さい

 医療機関によって異なりますが、遺族会の開催、電話や手紙によるサポートなどを実施しているところがあります。当院では担当看護師が電話でのサポートを行い、ご遺族の状況に応じて直接ご自宅に伺うこともあります。
 又、当院では『ほっとサロン“手と手”』という遺族会を年に数回開催しています。この会は在宅で家族を看取った遺族同士が、様々な思いを分かち合い、これからの歩みの糧になることを目指しています。互いのプライバシーを守ること、互いの話しに意見や批判をしないことなど最低限のルールはありますが、自由な雰囲気で語り合って頂きます。誰にも話せなかった思いを表出することが出来る方もいますが、必ずしも無理に話す必要はなく、ご自分にとって心地良い参加の仕方で良いのです。他の参加者の話を聴くことだけでも気持ちが整理されることもあるようです。参加された方からは「区切りをつけることができた。」「○○という言葉を聞いて自分も勇気づけられました。」などの言葉を頂きます。 
 我が国ではまだまだ遺族に対するケアは十分ではありませんが、医療機関に遺族会がない場合も地域によってはサポートグループや自助グループが生まれつつありますので、お住まいの地域の情報を得ることも重要です。
 悲嘆が非常に強くて、なかなか元の生活に戻ることができない場合は、病的悲嘆(悲嘆が強く、病的になった状態)の場合もありますので、専門家(心療内科や精神科、臨床心理士など)の支援を受けることも検討しましょう。自分から一歩踏み出す勇気が必要かも知れません。お困りの時は、身近にいる医療者や相談員に相談することも良いと思います。

院長 前野 宏

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第59回 看取りのパンフレット

 患者さんに残された時間がそろそろ週単位から日にち単位に変わると予想される時期に、医療者(当院では看護師)からご家族に向けて、看取りについて説明をします。これから起こると予想されることを説明することにより、ご家族は安心して”その時“を迎えることができます。不安な時には繰り返し読み直すことができ、一緒に説明を聞く事ができなかった方も見られるように、大切な事柄を解りやすくまとめた冊子を準備しています。これが看取りのパンフレットです。
 以下に、当院が使用しているパンフレットに書かれている文章と実際に看護師が行っている説明内容を示します。

1)1日のほとんどを眠って過ごし、逆に興奮して何時間も寝ない日があります。家族や時間、場所がわからなくなり、おかしな事を言って周囲を驚かせたりします。声をかけても返事がなくなる時が来ます。ご本人は最後まで耳は聞こえています。

2)排泄のコントロールが出来なくなり、もれてしまう事もあります。また、尿の量や回数が減っていきます。

 一般的には亡くなる1~2週間位前から、眠っている時間が長くなり、排泄や食事などの日常生活に介助を必要とするベッド上の生活へと変化し、意識状態も少しづつ変化していきます。患者さんに対する全面的な介助が必要となるのはこの時期だけともいえます。患者さんは意識が混濁した状態になっても、ご家族が傍に居る温かい雰囲気を感じているので、普段通りの生活を営むことや声掛けが大切になります。

3)無理に食べるとむせる様になります。食べたい時に好きな物を少しずつ食べるのが一番むせない様です。全く食べられなくなり家族は不安になりますが、ご本人は余分なエネルギーが必要なくなったと教えてくれているのです。

4)点滴による強制的な水分補給は体がむくんだり、痰が多くなって、かえって苦しい状態になることがあります。医療的な対応より、楽な体位にしたり体をさすったりする事がご本人を楽にしてあげられます。

 病状が悪化してくると、食事摂取量が段々少なくなり、最終的には何も口にすることができない状態になります。しかしそれは自然なことで、末期の状態では栄養を入れることが元気になることに結びつきません。患者さんが最早食べられなくなり、だるさが出てくると“点滴でもしたら楽になるのでは”と考えがちですが、点滴をすることは逆効果になることが多いのです。

5)呼吸の変化が一番家族を不安にさせます。のどの奥でゼロゼロ音がしたり、苦しそうな声がもれたりします。ご本人は意識が低下しており苦痛は感じていません。呼吸は不規則になり、肩や顎を動かして息を吸い込み、時々何十秒も息を休んだりして弱くなっていきます。

6)手足が冷たくなり色も悪くなっていきます。ご本人は冷たさも感じなくなっています。

 患者さんが亡くなる直前には血圧が下がり脈も触れにくくなります。循環障害(チアノーゼ)が起こり、手足の先から紫色に変化します。呼吸もリズムが乱れ、間隔があき、弱まりながら徐々に最期の呼吸を迎えます。亡くなる直前に下顎呼吸と呼ばれる顎を大きく動かし喘ぐような呼吸がみられることもあります。また、舌が喉に落ち込み、自分の唾液や分泌物さえも出すことができず、ゴロゴロするような音(死前喘鳴)やいびきのような呼吸がみられることもあります。ご本人は意識が低下し苦痛を感じていない状態にありますが、一見辛そうに見え、ご家族が不安になるかもしれません。この様な時には顔や身体を横に向けて首のポジションを整えるなど体位の工夫をしてみましょう。これはご家族でも十分にできる対応です。また、この時期は体温調整も難しく、高熱がみられることもありますが、ご本人は苦痛を感じていないため、無理に下げる薬剤を使うよりは、脇の下や頭部を冷やす等心地良いと思われる対応を行います。

 以上のように患者さんに起こる身体の変化を知ることにより、ご家族は最期まで落ち着いて見守ることが可能になります。病院でなければ出来ない対応ということは殆どないと言って良いでしょう。

Q.最期の時を迎えたら家族は何をすれば良いですか? 

・ご家族だけで水入らずのお別れをして下さい。

  最期の時、医療者が立ち会うことは多くの場合必要ありません。ご家族だけの大切な時間を過ごして頂くことを大切にしているからです。しかし、不安が強い場合などはいつでも連絡を頂き対応しています。

・24時間いつでも連絡して下さい。救急車や警察を呼ぶ必要はありません。

  救急隊や警察を呼んでしまうと、場合によっては検死になってしまい、静かな家族だけのお別れが台無しになってしまいます。まず、あらかじめ指定された連絡先に連絡して下さい。最期の呼吸を確認した後、連絡を頂いてから医師と看護師が訪問対応します。医師による死亡確認を行い、看護師による最期のケア(エンゼルケア)をご家族の希望に沿って行います。

・葬儀関係者に来てもらうのは、医師の診察後になります。

  看護師とケアの時間や流れなどを相談の上、連絡して頂くので十分です。

 看護主任 梶原陽子

第57回 介護施設での看取り

 「在宅死」と言った場合、「在宅」には「自宅」と「介護施設」が含まれます。老人が住んでいる場所という意味では、介護施設も「在宅」に含まれるのです。また、近年増えてきている「サービス付き高齢者住宅(サ高住)」は食事付きの集合住宅という感じですので、「自宅」に含まれます。

Q.介護施設での看取りの現状を教えて下さい。

 平成24年の我が国の悪性腫瘍死亡数は約36万人でした。そのうち、介護老人保健施設(老健)と老人ホームを合わせた介護施設での死亡数は約7000人でしたのでその割合は2%で、まだとても少ない数です。我が国において介護施設での看取りはまだ不十分と言って良いでしょう。
 

Q.介護施設で在宅緩和ケアを受けることができますか?

 介護施設の中で外部から在宅医療を受けることには制度上の若干の制約があります。しかし、患者さんが末期がんであれば老健以外は在宅緩和ケアを受けることは可能です。老健には専従の医師と看護師がいるので、外部から医療が入ることができないのです。
 介護施設で在宅緩和ケアを受けることができるかどうかは、介護施設の方針によるところが大きいと思います。つまり、患者さんが末期がんになってそのままその施設で過ごしたいという希望があっても、その施設が「病状が悪化したら入院して頂きます」という方針であれば、患者さんの希望は叶えられません。その施設が看取りまで看る方針かどうか事前に確認しておくことが必要でしょう。しかし、近年入居者が終末期になっても、希望があれば看取りまで施設で看る方針の施設も増えてきていますし、今後さらに増えることが期待されます。

院長 前野 宏

第55回 在宅死 -家で看取るということ-

 多くの方は「末期がんの患者を家で看取る」なんてとてもできない。と考えておられます。しかし、十分それは可能です。

Q.1 「在宅死」の良さを教えて下さい

 私たちが在宅ホスピスを提供した患者さんに「どうして家で過ごすことを希望されたのですか。」と尋ねると、「家は自由です。」「気兼ねしなくて良い。」「わがままできる。」「一番自分らしくいられる。」等という答えが返ってきます。
 最近のお宅ではほぼ半数くらいに犬や猫と行ったペットがいます。中には私の苦手な爬虫類を飼っている方もいます。家に帰りたい理由がペットがいるからという患者さんも少なくありません。
 要するに患者さんが家に帰りたい理由は特別なことではありません。日常生活を今までと同様に送りたいという願いだと思います。
 最近非常に増えた緩和ケア病棟(ホスピス)はとてもアメニティの良い施設が増えています。しかし、どんなに立派で素晴らしい施設でも、患者さんの完全な自由はありません。施設の決まりは守らなければなりません。例えば、消灯時間や禁煙など。そして、個室であってもあまり大きな声や音を出すことは控えなければなりません。ペットを連れてきても良い施設もありますが、そこでワンワン鳴く犬を飼うことは不可能でしょう。要するに、病院では患者さんは大なり小なり「我慢(patient)」を強いられます。家の最大の良さは「我慢しなくて良い」ということではないでしょうか。

Q.2 「在宅死」の難しさはどんなことですか?
 

 がん患者さんが最期まで家で過ごすことが困難な理由は第11回に書きました。すなわち、

①家族に(精神的、肉体的、経済的な)負担をかけるのではないか
②家にいると必要な時に必要な医療が受けられないのではないか
③入院が必要になった時、すぐにできないのではないか

 といったことでした。つまり大きく分けると、「家族の問題」と「医療の問題」になると思います。
 「家族の問題」は、ほとんどの方が家で家族を看取った経験がないことから来ています。つまり、経験がないので不安が大きいのです。しかし、経験の無さは知識で補うことができます。この連載の目的はまさにそのことです。このWEB講座を読むことにより、ご家族の経験の無さはかなり補うことができると思います。
 「医療の問題」は、地域で終末期患者さんを支えるために地域ぐるみで対応しなければならないテーマです。都市部、郡部など地域によって非常に大きな違いがあります。地域の強みを生かし、弱いところを補う努力が求められます。しかし、在宅医療は我が国において喫緊の問題です。国を挙げて取り組みつつありますので、状況が急速に改善することを期待します。

Q3. 「在宅死」は可能ですか?

 在宅ホスピスを開始した時点で「最期は家で死にます。」とはっきりおっしゃる方は非常に少ないです。大部分の方は「できるだけ家にいたいが、最期は家族に迷惑がかかるので入院でも良い。」とか「最期までは難しいと思う。」とおっしゃいます。
 私は在宅死を最初から目標にしなくても良いと思います。何が何でも家で最期を迎えるのだと考えるとかなりしんどくなってしまいます。もっとリラックスして考えて頂いても良いのではないでしょうか。大切なことは「できるだけ家で過ごしたい。」という希望です。これだけで十分だと思います。その思いで在宅ホスピスをスタートすると、患者さんもご家族も「やはり家はいい」という思いが強くなり、そのうち、ご家族もケアに段々自信が付いてくるものです。そうなればしめたもので、そのうち「家にいるのが当たり前」という雰囲気になり、結果として在宅死になるのです。つまり、「在宅死」は「家にいたい」という強い思いの自然な結果なのです。中にはご家族が心身共に負担が強く、それ以上在宅でのケアを続けられないことがあります。その場合には入院をすれば良いのです。家族が患者を入院させてしまい、後悔の念を持つことがないように、「在宅でも入院でもどちらでも良いのだ」と考えることが大切です。

                       
院長 前野 宏

第54回 患者の意志決定—インフォームドコンセント、セカンドオピニオン、アドバンスケアプラニング—

 がん医療において、患者さんが治療について意志決定(自分の意志で治療法などを選択すること)することがとても重要になります。特にがんが進行し、抗がん治療を続けるか中止するかといった決定は大変難しい選択です。患者の意志決定に関するキーワードについて説明しましょう。(横文字ばかりで恐縮です)

1.インフォームドコンセント(説明の上での合意)
 
 インフォームドコンセント(Informed Consent、略してIC)は「治療法について医師が患者さんに説明した上で同意する」ことです。ICという概念は第二次世界大戦後に生まれましたが、患者さんの権利であるという側面が強調されます。逆に言うと医師にとってはICは義務であるということになります。ICは大切な概念ですが、医師がこれを義務的に行うと患者さんにとってはかえって負担になってしまうことがあります。すなわち、医師が「治療法の選択肢を説明したのですから、後はあなた(患者)が決めて下さい。」というふうになってしまうと、非常に難しい選択を患者が強いられることになってしまいます。
 

2.セカンドオピニオン
 
 治療法などについて、現在の主治医ではない他の医師の意見を聞くことです。患者さんにとって医師が説明する治療法はただでさえ難しいのに、選択肢が複数になるとその中から一つを決めることはとても困難です。現在では、そのような患者さんのために他の医師の意見を聞くことが一般的になってきました。そして、がんセンターやがん治療専門病院ではセカンドオピニオン外来を設置しているところが多くなってきました。
 他の医師のセカンドオピニオンを聞くためには、現在の主治医に患者の希望を伝え、診療情報提供書とレントゲンやCT写真の貸し出しをお願いしなければなりません。セカンドオピニオンは患者さんの権利ですから、患者さんから現在の主治医に「セカンドオピニオンを受けたいのです。」ということを率直に伝えると良いでしょう。そのような要望に快く対応しない医師は逆に信頼できないかも知れません。

3.アドバンスケアプラニング

「アドバンスケアプランニング」は欧米からもたらされた新しい考え方です。
 例えば、患者さんが再発進行がんのように重い病気になったとします。将来予想される病状の変化に対し、患者、家族、医療者が集まり、どのような治療をするか、終末期にはどこで過ごしたいかといったことを前もって話し合います。患者の価値観や希望、家族の意見を踏まえることを重視します。話し合いは病状の変化に応じてその都度行います。
 健康な時は「自宅で最期まで過ごしたいと」希望していても、大部分の人は病院で亡くなっています。なぜでしょう。患者は目の前の治療に集中します。そして、自分の病状が将来どのように変化するか分からず、いざ自宅で過ごしたいと思っても、条件が合わず間に合わないということが起こってしまうのです。
 がん治療は非常に進歩しています。以前は治療の対象にならなかったような終末期の患者にも比較的副作用の少ない抗がん剤が使えるようになりました。場合によっては死ぬまで〝治療〟を受けることが可能なのです。
 最期は自宅で家族とともに過ごしたいと考えているなら、どこかでがんに対する治療を中止しなければなりません。「アドバンスケアプランニング」ではそういったことも話し合います。この考え方ががん治療の現場に広がることを願います。

院長 前野宏

第53回 緩和ケア病棟と緩和ケアチーム

 在宅ホスピスを考える場合、病院における緩和ケア病棟(ホスピス)や緩和ケアチームとの関係が重要となります。

Q1.緩和ケア病棟(ホスピス)について教えて下さい

 「緩和ケア病棟」は緩和ケアを専門的に提供する病棟です。我が国最初の緩和ケア病棟は1981年に静岡県の聖隷三方原病院に作られた「聖隷ホスピス」です。1990年に診療報酬の中に「緩和ケア病棟診療料」が設定されてから急速に増え、2014年2月1日現在、全国で丁度300カ所あります。
 緩和ケア病棟は主に終末期のがん患者さんが過ごす場所として定着してきましたが、近年、在宅で過ごす患者さんをバックアップする機能も期待されています。在宅で過ごしている患者さんも入院が必要になることがありますし、緩和ケア病棟で入院している患者さんも家に帰りたいという希望を持つ場合もあります。病棟でも家でも質の高い緩和ケアが切れ目なく提供されることが期待されます。
 

Q2.緩和ケアチームについて教えて下さい

 緩和ケア病棟がない病院でも、専門の緩和ケアを提供するために「緩和ケアチーム」があります。制度としては2002年、診療報酬の中に「緩和ケア診療加算」が設定されてから広まりました。2014年2月1日現在、全国で届出されている緩和ケアチームは206カ所あります。しかし、届出をしていない緩和ケアチームもありますので、実際に活動をしている緩和ケアチームの数はもっと多いと思います。例えば、「がん診療連携拠点病院」には必ず緩和ケアチームが無ければならないことになっています。
 緩和ケアチームの働きは、主に入院中のがん患者さんの症状緩和ですが、患者さんができれば家で過ごしたいと考えている場合、自宅への退院支援をするのもその役割の一つです。患者さんが入院している病院に緩和ケアチームがあるのなら、そのメンバーに相談してみるのもいいでしょう。

Q3.在宅ホスピスにおいて、緩和ケア病棟や緩和ケアチームの役割は何ですか?

 当初、最期まで家で過ごそうと考えていても、途中で患者さんが入院を希望したり、ケアをしていた家族がこれ以上、家で看るのは困難であると考えるようになった場合、地域に緩和ケア病棟や緩和ケアチームがある病院が存在する場合は、これらが選択肢に上るでしょう。
 患者さんが住んでいる地域に緩和ケア病棟や緩和ケアチームがある病院があるかどうかは今まで治療を受けていた病院に相談するか、「日本ホスピス緩和ケア協会」のホームページでも調べることができます。

院長 前野 宏

第52回 在宅ホスピスの費用について

WEB講座 第52回 在宅ホスピスの費用について

 在宅で医療や介護を受けながら療養するには高額な費用が掛かると思っている方も多いのではないでしょうか? ところが、実際には医療も介護も公的な保険制度や各医療制度(生活保護、心身障害、特定疾患など)が適用されますので、病院に入院したときに掛かる総費用と比べるとそれ以下か、または同じぐらいと考えていただいて良いと思います。

 在宅ホスピスに掛かる費用は、医療にかかる部分と、必要に応じて利用する介護にかかる部分の大きく2つに分けて考えると分かりやすいと思います。

Q1.医療に掛かる費用はどれくらいですか?

 在宅ホスピスの場合は、通常の在宅医療と比べて医師や看護師の訪問頻度が高くなります。当院の場合は、症状やケアの内容にもよりますが、多くの患者さんに対して1週間のうち4日を医師(訪問診療)または訪問看護師が定期的に訪問していますし、お看取りが近くなると連日訪問することも少なくありません。したがって、医療費も高額になります。
 しかし、国民健康保険や後期高齢者医療制度、社会保険などの公的な医療保険制度には、患者さんが1ヶ月間に負担する医療費の上限額が決められている高額療養費制度が適用されますので、最終的には下記の表1に記載された自己負担限度額までをお支払いいただくことになります。

【表1】
1ヶ月にかかる医療費の上限について(高額療養費制度)平成26年4月1日現在

世帯区分 負担率 自己負担限度額
(入院・通院(在宅)共通)
上位所得者(区分A) 3割 150,000円
+(医療費総額-500,000円)×1%
83,400円
一般(区分B) 3割

80,100円
+(医療費総額-267,000円)×1%

44,400円
市民税非課税(区分C) 3割 35,400円 24,600円

(※)多数該当(当月を含む過去12か月以内に高額療養費に該当した月が
3回以上あった場合、4回目から適用される自己負担限度額)


■70歳以上の方(国民健康保険および後期高齢医療)

世帯区分 負担率 自己負担限度額
通院(在宅) 通院(在宅)+入院
現役並み所得者 3割 44,400円 80,100円 (注1)
(44,400円)(注2)
一般

1割
または2割

(注3)

12,000円 44,400円
市民税非課税 8,000円 24,600円(Ⅰ)

15,000円(Ⅱ)

(注1)医療費総額が267,000円を超えた場合、超えた額の1%を加算
(注2)多数該当(当月を含む過去12か月以内に高額療養費に該当した月が3回以上あった場合、4回目から適用される自己負担限度額)
(注3)平成26年4月1日以降に70歳に達する方は2割負担


Q2.院外処方された薬剤費は高額療養費の対象になりますか?

 対象になります。院外処方された薬剤費については薬を受け取った調剤薬局に一旦支払いますが、診療所に支払った医療費がすでに自己負担限度額を超えている場合、または、薬剤費を合算することによって自己負担限度額を超える場合は、申請により(後期高齢者医療を受給されている方は申請の必要はありません。)、超えた金額が後日支給されます。

Q3.訪問看護ステーションを利用する場合はどうですか?

 当院の場合は、当院の医師や看護師が訪問しますが、診療所(または病院)から医師が訪問し、訪問看護ステーションから看護師が訪問する体制がむしろ一般的です。その場合は、診療所と訪問看護ステーションに表1で示した自己負担限度額までをそれぞれ一旦支払いますが、最終的には両方に支払った医療費を合算して自己負担額を超える場合は、申請により(後期高齢者医療を受給されている方は申請の必要はありません。)、超えた金額が後日支給されます。また、院外処方された薬剤費についてもQ2.の回答と同様の取り扱いができます。

Q4.このほか公的な医療保険が適用にならない費用がありますか?

 交通費は医療保険の対象外になります。金額は診療所や訪問看護ステーションによって独自に設定されています。このほかに、診断書や証明書の発行料、訪問看護師による休日訪問加算や死後処置費(エンゼルケアとも言います)などが保険外の費用として設定されている場合がありますので、事前に確認しておくと良いでしょう。

Q5.介護に掛かる費用はどれくらいですか?

介護保険制度のしくみやサービスについては「第48回介護保険について」を参照してください。介護保険サービスには様々なものがありますが、在宅ホスピスで療養している患者さんが主に利用するサービスと費用について下記の表2を参考にしてください。
介護保険制度の介護サービスは、利用できる対象者、サービス内容や時間などが制限されています。民間で運営するホームヘルパー、家政婦サービス、有償ボランティアなどを利用することによって介護体制をとのえることも時には有効な手段です。サービス内容や費用についてはそれぞれの事業所に確認してください。

Q6.結局、在宅ホスピスにかかる全体的な費用はどれくらいになりますか?

当院で担当している患者のAさんを例に費用について考えてみましょう。Aさんは76歳の男性です。大腸がんの末期と診断され、ほぼ寝たきりの生活となりましたが、自宅で最期まで過ごしたいと希望しています。3つ年下の奥さんと、当院から約3㎞離れた自宅に二人で暮らしています。後期高齢医療を受給しており、世帯区分は一般です。介護保険は要介護3の認定を受けています。Aさんが負担した1ヶ月の費用について下記の表2を参照してください。

表2 Aさんが1ヶ月に支払う費用(平成26年4月1日現在)

  項 目 負担額 備考
医療費関係 医療費
(医師や看護師の訪問)
(医療処置、薬代など)
1万2000円 高額療養費制度による
自己負担限度額
交通費 6400円 訪問1回につき
往復400円×16回
合 計 1万8400円  
介護保険
サービス
電動ベッド+付属品 1550円 月額レンタル料
床ずれ予防マットレス 900円 月額レンタル料
ポータブルトイレ 7000円 初回購入費のみ
ホームヘルパー 3680円 460円×週2回
訪問入浴サービス 5520円 1380円×4回
合 計 1万8650円  
医療+介護の合計 3万7050円

※福祉用具は品物によって金額が異なります。


在宅ホスピスでは、ここで述べた費用のほかに、生活していくために必要な費用、つまり食費や水道光熱費がかかります。一方、入院の場合は、医療費のほかに食事療養費がかかりますし、個室の場合は室料がかかります。また、ご家族の面会のための交通費なども考えると、冒頭でも述べたように、総費用を考えると在宅ホスピスの方が、入院の費用のそれ以下か、または、同じくらいと言えると思います。

また、この章では在宅ホスピスで掛かる費用についておおまかに示しましたが、詳細については、病院の医療相談窓口、診療所、訪問看護ステーションなどにお尋ねください。

ソーシャルワーカー 提箸秀典

第51回 在宅ホスピスを希望するならどうしたら良い?

 あなたやご家族ががん患者であり、在宅ホスピスを希望された場合、どうしたら良いでしょうか。

Q1.在宅ホスピスを受けられる人は?

以下のような条件に当てはまる患者さんは在宅ホスピスの適応になります。

①  患者も家族も在宅ホスピスを希望している

②  基本的に通院が困難な状況である

 一人で通院できるようなお元気な方は在宅医療を受けることができません。

③  がん患者であって緩和医療や緩和ケアの対象である

 抗癌剤治療などのがん治療を行っている方も受けられる場合があります。

④  症状や医療、処置などが概ねコントロールされており、在宅で行える医療やケアの対象である

 症状が著しく不安定であるとか処置の内容によっては難しい場合があります。

⑤  患者も家族も病気の現状と今後について理解している

 在宅ホスピスは、辛さを緩和することで安楽に過ごしていただくためのお手伝いをするのであって、病気を治すものではありません。

⑥  家族、親せき、友人など、見守りや介護ができる人がいる

 現在の我が国の制度では、一人暮らし(独居)の患者さんがお看取りまで自宅で過ごすことはかなり困難です。(第58回)

Q2.まず誰に相談したら良いのですか?

 できれば、まず主治医に相談してみてください。もしも、主治医に直接話すのはちょっと抵抗があるようなら、患者さんが通っている病院に医療相談室、地域連携室、退院調整室などがあればその部署の医療ソーシャルワーカーや看護師などに尋ねてみるのが良いでしょう。がんセンターなどのがん診療連携拠点病院では、がん相談支援センターが設置されており、その病院にかかっている患者や家族のほか、地域住民への情報提供や相談支援を行うことになっています。

 また、在宅ホスピスを実際に行っている在宅療養支援診療所や訪問看護ステーションに直接尋ねてみるのも良いでしょう。

 介護保険サービスを利用している方は、ケアマネジャー、訪問看護師、ホームヘルパーなどに相談するのも良いでしょう。また、地域包括支援センターは、地域住民の様々な困りごとに対応する役割を担っていますので、だれでも気軽に相談することができます。

Q3.相談してから在宅ホスピスが開始されるまでの流れを教えて下さい。

 患者さんが入院中の場合は、患者さんの意向が分かると、病院のスタッフ(医師、看護師やソーシャルワーカー、地域連携室のスタッフなど)間で話し合い、患者さんが在宅で過ごすことが可能かどうか検討します。そして、患者さん・家族の意志が確認でき、在宅で過ごすことが可能と判断されたら、地域連携室のスタッフなどが、患者さんが済んでいる地域で在宅ホスピスを提供できる在宅療養支援診療所、訪問看護ステーション、ケアマネジャーなどを探します。そして受け入れ可能な在宅ホスピスチームが決まったら、退院時カンファレンス(第42回)を開催し、退院日が決定されるのです。

 患者さんが自宅にいる場合は、一般的にはまず在宅療養支援診療所の外来に来て頂くことになると思います。患者さんが来ることができない場合にはご家族だけ来て頂くこともあります。話し合いの結果、ご本人、ご家族が在宅ホスピスをご希望されたら、訪問開始となります。

ソーシャルワーカー 提箸秀典

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