第31回 セデーション(鎮静)
2014-04-09
1.セデーションとはどのようなことですか?
自宅で療養する患者さんの大部分は「最期はつらい思いをしないで逝きたい」という希望を持っておられます。ご家族も患者さんが苦しむ様子を見るのは苦痛です。そして、ご家族は患者さんが苦しそうでなく、眠る様に旅立つことができると心から慰め られるのです。患者さん、ご家族の不安に対して、私たち在宅ホスピスのスタッフは患者さんが自宅で最期までつらくなく過ごすことができることを約束します。そのための重要な方法がセデーション(鎮静)です。
当院では、自宅で亡くなった方の約4割に何らかのセデーションを行っています。
2.セデーションはどのような場合に行うのですか?
終末期のがん患者さんには、最終的に病気の進行から起こる治療が難しく、いわゆる「身の置き所のない」苦痛が残ることがあります。この苦痛をそのままにしておく訳にはいきません。
他のどのような手段を講じても取りきれない様な苦痛が起こっている患者さんに私たちができる最後の手段は、患者さんの意識レベルを苦痛を感じない程度に下げてあげることです。たとえて言うならば、患者さんに麻酔をかけて眠って頂くという様なことです。多くの場合、患者さんはそのまま眠る様に最期を迎えることができます。
3.セデーションはどのような方法で行うのですか?
具体的な方法としては、意識を低下させる座薬や注射を使います。それ自体は特別難しい処置ではありません。苦痛がそれほど強くない場合は、ご家族に指導して、鎮静の効果がある坐薬を頓用あるいは定期的(1日2〜3回)に用います。それでも取りきれない様な強い苦痛の場合は、鎮静剤の注射を持続皮下注射のポンプを使って投与します。患者さんの眠りは徐々に深くなり、数時間から1〜2日かけて深い昏睡になります。
4.セデーションの問題点は何ですか?
セデーションの問題点は、患者さんが眠ったような状態になるので、家族とのコミュニケーションが取れなくなることです。この様な倫理的な問題があるので、セデーションの導入にはいくつかの確認事項があります。
① 患者さん自身がつらくなった時にセデーションをしてほしいかどうかという
患者さんの意思を確認しておく。もし患者さんの意志が確認できない場合に
はご家族などの意見を確認する。
② 患者さんの苦痛を緩和する手段が他にないかをチーム内で十分に検討する
必要がある。
③ 死が差し迫っている。セデーションは最終的な手段であるので、残された時
間が数日である可能性が高い場合に行う。
上記のことを、在宅ホスピスチーム内で十分に検討し、倫理的にも妥当であると判断された場合にのみセデーションを行います。
セデーションは、倫理的にも検討を要する手段ですから安易に行うことは避けなければなりませんが、だからといって、患者さんが苦しんで亡くなることがあってはいけません。ですから、セデーションは熟練した在宅ホスピスチームのみが行うことができる医療処置なのです。
院長 前野 宏
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