第10回 在宅緩和ケア(在宅ホスピス)と病院の緩和ケアの違い
2013-02-12
前回、我が国の緩和ケアの歴史について少しお話ししました。1973年に柏木哲夫先生が淀川キリスト教病院で多職種チームを組んで末期がん患者さんをケアしたのが最初でした。まだ「ホスピス」という言葉もない頃のことです。それから今年でちょうど40年が経ちます。この間、我が国の緩和ケアも急速な広がりを見せてきました。そして、前回お話ししたとおり、2007年に「がん対策基本法」が施行されてから、それはさらに加速された感があります。しかしながら、こと「在宅緩和ケア(在宅ホスピス)」に関してはまだまだ普及という言葉にはほど遠い現状だと思います。それは、我が国の緩和ケアが主に病院で発達してきたからです。
それでは「在宅緩和ケア(在宅ホスピス)」と「緩和ケア病棟」の違いは何でしょうか。
基本的には、在宅であれ、病院であれ、緩和ケアは同じです。ただ、ケアが提供される場所が違うだけです。しかし、場所の違いは現実的には大きな違いにもなります。
患者さんから見てみるといくら緩和ケア病棟が患者さんの生活を第一にするといっても、住み慣れた自宅とは異なります。住み慣れた自宅の良さは何にも替えがたいものがあるでしょう。いつも見慣れた空間は、どこに何があるか分かっている安心感があります。そして大好きな猫や犬がいつも一緒です。ペットが大好きな方には自宅に勝る場所はないと言っていいでしょう。実際、多くの自宅で過ごしたい患者さんにその理由を聞いてみると、ペットのことを挙げる人が少なくありません。最近では、緩和ケア病棟の中にはペットを連れてきても良い所も増えてきてはいますが、病棟でペットを飼うことが許されている所はないと思います。
それでは、ご家族にとってはどうでしょうか。ちょっと考えると家族にとって自宅に末期がんの患者さんがいるということはとても大変なイメージがあると思います。ところが、実際にご家族に聞いてみるとそうでもなさそうです。例えば、毎日のように自宅から病院に通うのも結構大変です。そして、病院という場所はご家族のためのアメニティは非常に悪いのです。個室であってもご家族がごろっと寝転がるスペースなどありません。ましてや大部屋ではなおのことです。周りの目もあって、とてもゆっくりとは休めません。そして、いつ医療者が入ってくるかもしれませんのでいつもそれなりの身繕いは欠かせないと思います。また、夜になって家に戻ってきても患者さんのことが気になります。今日は痛くなく過ごしているだろうか。つらいときにちゃんとナースコールを押せるだろうか。などなど。そんな心配は自宅に患者さんがいたらいっさいないのです。つまり、ご家族が患者さんのことを一生懸命に看ようとすればするほど自宅の方がご家族にとっては楽だという風にも言えると思います。
それでは、病棟の良さは何でしょうか。病棟の良さは何といってもナースコールのボタンを押せばすぐに(例外もあり?)ナースが駆けつけてくれることでしょう。ナースコールの存在はまさに病院にいる安心感そのものかもしれません。しかし、現実的には待ったなしでナースが駆けつけなければならないことはほとんどありません。では、在宅の場合はどうかと言うと、患者さんには24時間いつでも電話をしても良いことをお伝えしています。しかし大切なことはそのような緊急事態ができるだけ起こらないように日頃から「先取りのケア」をしておくことです。24時間の連絡先を書いてある紙(当院の場合は赤いA4の紙です)は患者さんにとってお守り代わりになっているようです。
院長 前野 宏
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