第11回 末期がん患者さんが最期まで自宅で過ごせない理由
2013-02-21
第1回の講座でもお話ししましたが、日本人の多くは自分が終末期になったら本当は家で過ごしたいという希望があるが現実的にはそれは難しいだろうと考えているようです。それでは、どんな理由で自宅で過ごすことは難しいと考えているのでしょうか。この問いに対してのアンケートはありませんが、私が講演会などで聴衆の方に聞いてみたことなどから以下に推測してみました。
①家族に肉体的・精神的に負担をかけるのではないか?
何といってもこの答えが一番多いようです。確かに患者さんが入院していれば、患者さんに対するケアはすべて医療者(主に看護師)がやってくれます。患者さんが家にいるとそういったケアも基本的にはご家族が行わなければなりません。また、常に患者さんの様子を見ていますので精神的にもストレスになることもあると思います。しかし、次回にお話ししますが、多くの末期がん患者さんは、実は亡くなる数日前まである程度ご自身のことができている方が多いのです。つまり、一般的には長い期間大変なケアが継続するということは多くはありません。
そして、多くのケアをしているご家族がおっしゃることは肉体的にも自宅で看ている方が意外と楽だということです。ご家族が入院先の病院まで毎日通うのも結構大変ですが、そもそも病院という場所は患者さんのために作られているのであって、ご家族がゆっくり過ごす環境がありません。最近作られた病院では、病棟毎にきれいなデイルームが整備されているようですが、それでも、ご家族がいつでものんびり横になることができるような場所はありません。そして、周りの目も常に気にしなければなりません。
また、ご家族が病院から家に戻ってくると、「今頃どうしているだろうか。」「つらい時に遠慮せずにナースコールを押しているだろうか。」などと患者さんのことが気にかかります。しかし、患者さんがお家にいると、常に一緒ですのでそういった不安がありません。周りを気にする必要もありません。
このように、患者さんがお家にいることはご家族にとって、肉体的にも精神的にも意外と楽であるということも言えるのです。
②家族に経済的な負担をかけるのではないか
在宅緩和ケア(在宅ホスピス)は基本的に医療保険制度の中で提供されますので、病院の医療よりお金がかかるということはありません。(在宅緩和ケア(在宅ホスピス)の医療費のことは本講座の後の方で詳しく述べます)ただ、ベッドのレンタルとか訪問入浴といった介護保険で提供されるサービスや訪問診療、訪問看護の時に発生する交通費は別途負担になります。でも、金額としてはそれほど高くはありません。逆に、入院の際に発生する個室料の差額など病院において余計にかかる費用も少なくありません。
と言う訳で、在宅の方が入院よりお金がかかるということは一般的にはありません。
③患者に何か起こっても、すぐに対応してもらえないのではないか?
このように思っておられる方も多いようです。入院しているとナースコールを押すと看護師がすぐに来てくれる(実際はすぐに来れないことも多いのですが)。という安心感は少なくないかもしれません。しかし、実際に待ったなしで対応しなければならないようなことが起こることは多くはありません。そして、在宅の場合には何か起こったら24時間いつでも電話していただいて良いことになっており、当番の看護師が対応いたします。そして、必要があれば臨時訪問も行います。また、予測されるようなことに関しては、とりあえずご家族で対応できるようなこともあらかじめ準備しておきます。
しかし、大切なことはこういった緊急事態が起こらないように日頃のケアを行ってゆくことです。それを私たちは「先取りのケア」と言っています。
④自宅では十分な医療を受けられないのではないか?
自宅は基本的に医療を提供する場所ではありませんので、本格的ながんに対する治療とか検査は病院でしていただきます。しかし、つらさを取るための症状緩和については病院と同じ医療が提供できます。高カロリー輸液や経腸栄養をすることも可能です。また、簡単な超音波検査や採血は在宅でも可能です。
つまり、自宅で過ごすために必要な医療は受けられると考えていただいて良いと思います。
⑤入院を希望してもすぐに対応してもらえないのではないか?
在宅緩和ケア(在宅ホスピス)を提供している患者さんに対しては必要なときに入院する病院を必ず確保しておきます。私たちのクリニックの場合には関連病院である札幌南青洲病院にいつでも入院できることをお約束しております。
以上、末期がん患者さんが在宅で過ごす上で不安材料になると思われることを挙げてみました。それぞれに対応できますので是非、安心して在宅緩和ケアを受けて頂きたいと思います。
院長 前野 宏
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