第12回 終末期患者さんの状態(ADL)
2013-02-26
さあ、これからは在宅緩和ケア(在宅ホスピス)についてより具体的なことを述べてゆきましょう。まず、皆さんが実際に終末期がん患者さんを自宅で看る際に知っておいて頂きたい大切なことは、終末期がん患者さんはどのような状態で終末期を過ごされるのだろうかということです。
以前にも述べたと思いますが、終末期がん患者さんは意外と亡くなる数日前まである程度ご自分のことができたり、食べることもできたり、コミュニケーションもとれているのです。
(図1)
(図1)は終末期がん患者さんの日常生活動作(ADL)が亡くなる前にどのように変化したかを当院の患者さんを元に調べたものです。これを見ると、亡くなる1週間前までは大部分の方が日常的なことを曲がりなりにもできていることが分かります。「移動」という項目は必ずしも歩けている訳ではありませんが、患者さんがベッドから車いすを使ってでも離れることができている状態を表しています。例えば、食卓テーブルで食事をしているとか、排泄を家のトイレを使って行っている状態などを表しています。「移動」以外の行動は亡くなる3日前までは半数以上の患者さんができています。つまり、多くの患者さんはベッドの上ではあっても食事をしたり、会話をしたりできているのです。それはケアをするご家族にとってとても重要なことであると思います。意識のない、反応のない患者さんを長い間お世話しなければならない訳ではありません。最後のぎりぎりまで会話を楽しむことができたり、食事を少しではあっても味わってもらうという喜びを感じることができるということです。ご家族にとってケアをすることは大仕事ではありますが、患者さんの反応があることは大きな励ましになることでしょう。
しかし、患者さんが亡くなるぎりぎりまで日常的なことができているという事実は落とし穴にもなるのです。それは、ご家族はともすると患者さんとのお別れがかなり近づいているということに気づかない可能性があるのです。患者さんとお話しができ、まだお食事もとれている。そうすると患者さんとのお別れはまだまだ先のことだろうと知らず知らずのうちに思ってしまうのです。そもそも愛する人とできればお別れはしたくない、ひょっとすると奇跡が起こるかもしれないとひそかに思っているかもしれません。なかなか現実を直視することは難しいかもしれません。
私は患者さんの状態が最終段階になるとご家族に上記のようなことをご説明し、残念ながら患者さんとのお別れが近いということをお伝えしています。しかし、患者さんが亡くなった後、多くのご家族がおっしゃるのは、「先生が説明してくれたとおりになりましたね。説明を受けたときは信じられなかったのですが、そのようになってみて初めて、ああそうだったんだと分かりました。」ということです。大部分のご家族は同じようなお気持ちをもたれるのだと思いますし、それは仕方がないことだと思います。でも、こういった知識があるかないかは実際にそのことが起きたときの心構えが違います。心の片隅に覚えておいて頂きたいと思います。
院長 前野 宏
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