第15回がんの痛みについて−いたずらに恐れずにまず敵を知ることが大事—
2013-04-01
一般市民の方が「がん」について最も恐れていることは「全てのがん患者は痛みで苦しむ」「がんの痛みは最後になると強くなり、がん患者は苦しんで亡くなる」といったことではないでしょうか。これらのことはがんの痛みの治療が進んだ現代では全てが誤解です。適切な治療をすることによってがん患者さんのほとんどの痛みはほぼコントロール可能です。この講座を読んで頂くことによって是非そのような誤解が解かれ、無用な恐れから解放されることを願っております。
1)がんの痛みの頻度はどれくらい?
全てのがん患者さんががんによる痛みを体験する訳ではありません。ホームケアクリニック札幌がケアを提供し、在宅死を遂げたがん患者さん207人のうち痛みの治療を行ったのは169人(81.6%)でした。在宅緩和ケア(在宅ホスピス)で私たちが関わる患者さんはどちらかというと苦痛症状が強い方が多い可能性があるので、全てのがん患者さんにおいてはこの数字は実際はもっと少ないと思われます。世界的にはほぼ7割のがん患者さんがその経過の中で痛みを経験すると言われています。ということは逆に言うと残りの3割の患者さんは幸いがんによる痛みを経験することが無かったと言うことになります。つまり、「全てのがん患者は痛みで苦しむ」ということが誤解であることがおわかりでしょう。
2)がんの痛みは取りきれるか?
当クリニックでがんの痛みの治療を行った上記の169人のうち治療の効果が良好だったのは139人(82.2%)、必ずしも十分に痛みが取りきれなかったのは25人(14.8%)、痛みの治療が明らかに不十分であったのは1名(0.6%)、評価が出来なかったのが1名(0.6%)でした。つまり、がんの痛みは100%完全に無くなる訳ではないけれども最後まで苦しんで亡くなる人はほとんどいないと言って良いと思います。現代医学の力により大部分のがん患者さんの痛みは緩和できるのです。
現代は情報が氾濫しています。手に入る情報の中には正しい情報もあるでしょうが間違った情報や時には悪意のある、人を不安に陥れるための情報もあります。がん患者さんはあまり安易に考えることも禁物ですが、正しい情報によって正しい治療を受け、安心した生活を送って頂きたいものです。
次回から、がんの痛みに対する治療を具体的にお話ししたいと思います。
院長 前野 宏
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