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第16回 がんの痛み治療法のスタンダード−WHO方式がん疼痛治療法−

2013-04-09

 前回の講座でお伝えしたとおり、一般市民の間では「がんの痛みは怖いものだ」という誤解が広がっているようです。そういった誤解が広がってしまった原因の一つは、つい20〜30年くらい前までは多くのがん患者さんが苦しんで亡くなられていたという現実があります。つまり、驚くべきことかもしれませんが医療はがんの診断や治療に対しては大きな進歩を遂げてきたのですが、がん患者さんの苦痛を緩和する治療については残念ながら非常に遅れていたのです。
 私が医大生だった今から約30年くらい前、私の親類が末期がんになってしまいました。東京にある有名な大学病院に入院していたのですが、しっかりとした疼痛治療が行われず、かなり苦しんでいたことを思い出します。

 つまり、つい最近までがんの痛みの標準的な治療法が確立していなかったのです。これは我が国だけの問題ではなく、世界的な問題でもありましたので、WHO(世界保健機関)は「がん疼痛救済計画」を作り、「全てのがん患者を痛みから解放しよう(Freedom from Cancer Pain)」という運動に乗り出しました。そして、世界中から疼痛治療の権威が集まり、協議を重ねた末に1986年に出版されたのが「WHO方式がん疼痛治療法」です。このWHO方式は瞬く間に世界中に広がり、がん疼痛治療法のスタンダード(世界標準)になり、現在に至っています。その主な内容は以下のようなものです。

1.がん患者の痛みの診断
 がん患者さんが痛みを持ったからといってむやみに痛み止めを使うのは間違いです。それががんによる痛みなのかそれ以外の原因によるのかを確かめなければなりません。そして、がんによる痛みであっても痛みには種類があるのです。時には検査を行って痛みの診断をします。

2.痛みの治療の目標
 痛みの治療によっていきなり痛みが全くなくなるということはほとんどありません。鎮痛薬の量を徐々に増やしていったり、鎮痛薬の種類を変えたりしながら以下のような目標を設定して段階的に調整していきます。
1)夜間、痛みに妨げられないで睡眠を取ることが出来る
2)日中、安静にしていれば痛みが消えている
3)日中、体を動かしても痛みが消えている

3.鎮痛薬による疼痛治療
 先にお話しした痛みの診断によって鎮痛薬を選択し、以下の原則によって鎮痛薬使います。
1)経口的に:内服が一番患者さんにとって負担が無いのです
2)時刻を決めて規則正しく:痛くなったら痛み止めを飲むというのでは、痛みの治療は後手を踏んでしまうのです。痛みが出ないようにするのが理想です。
3)除痛ラダーにそって順番に使う:WHO三段階除痛ラダー(図1)を用います。
4)患者毎の個別的な量で:痛みを取るために必要な鎮痛薬の量は患者によって全然違います。
5)その上で細かい配慮を
1

  WHO除痛ラダーは鎮痛薬の使い方の順番を示しています。「オピオイド」とは医療用の麻薬のことを言いますが、後の講座で詳しく説明します。「鎮痛補助薬」についても後で説明しましょう。このラダー(階段)の第一段階はまずオピオイドではない、がん患者さん以外にも良く使用する鎮痛薬を用います。それでも痛みが取りきれないときに第2,第3段階へと移ってゆきます。しかし、これはあくまでも原則ですから、原則通りにならないこともよくあります。
 それでは、次回はオピオイドについてお話ししましょう。
                            院長 前野 宏

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