第21回 腸閉塞について
2013-05-15
今回のテーマは「腸閉塞」です。腸閉塞とは要するに小腸とか大腸が何らかの原因で詰まってしまうことで腸閉塞は痛みとか吐き気といった「症状」ではありません。難しく言うと「病態」あるいは「診断名」です。しかし、腸閉塞になると色々とつらい症状が起こるのと治療法あるいは症状を緩和する方法も色々とあるので少し詳しくお話しすることにしました。
当院が在宅緩和ケア(在宅ホスピス)を提供したがん患者さん320人のうち腸閉塞を合併した患者さんは33人(10.3%)でした。中でも胃がんの患者さんには37%に腸閉塞が合併しましたが、意外だったのは大腸がん(直腸がんも含む)の患者さんでは6%と少ない傾向でした。
1.腸閉塞の原因
腸閉塞の原因には大きく分けて二つあります。それらはちょっと難しくなりますが、
・機械的閉塞
・機能的閉塞
の二つです。機械的閉塞は、腫瘍によって小腸が圧迫されたり、手術によって
腸と腸がくっついたり(癒着と言います)、捻れたり(捻転と言います)することによって、腸が詰まってしまうことを言います。機械的閉塞はがっちりと詰まってしまうと自然に元に戻ることはありません。機能的閉塞は、腹水やがん性腹膜炎(例えば、胃がんの細胞がお腹中に広がっている状態)あるいは薬剤の作用などによって腸の動きが極端に悪くなって起こります。機能的閉塞は自然に再開通することがあります。
2.腸閉塞の症状
腸閉塞が起こると特徴的な症状が起こります。腸閉塞の3大症状は、以下の三つです。
・腹痛
・お腹の張り(腹満)
・吐き気、おう吐
腹痛は、お腹の中にある腫瘍自体によっても起こりますが、腸閉塞に特徴的な痛みとしてお腹全体がきりきりと刺すような痛みが起こることがあります。それは腸が詰まることによって、腸自体がさらに腸液(食べたもの)を押し出そうとして緊張するために鋭く強い痛み(疝痛)が起こるのです。この痛みはとても強いもので、時に患者さんが悶絶するようなこともあるほどです。
腸閉塞によるお腹の張り(腹満)は腸が詰まることによって流れることが出来ない腸液が大量に貯まることにより起こります。また、胃がんの患者さんはがん性腹膜炎も同時に起こることがあるので、それによって腹水が貯まり、さらにお腹の張りが二重につらくなることがあります。
腸に腸液が貯まり、どんどん増えてくると当然貯まった液は出て行くところが無くなって胃に貯まり、最終的には口から戻す(おう吐)ことになります。おう吐する前には当然吐き気も起こります。これはとてもつらい症状です。吐物が便のような悪臭のする場合は詰まっている場所が口から遠い部分の腸であることを表します。
3.腸閉塞の治療(症状緩和)
先ほども述べたようにしっかりと詰まってしまった機械的腸閉塞は自然には戻りません。腸の流れを元に戻すためには手術しかありませんが、高齢であったり、衰弱している患者さんにとっては命がけの治療になってしまいますのでしない方が良いことが多いと思います。
完全に詰まっていない機械的閉塞や機能的閉塞に対しては、絶食とし、点滴をしながら腸を休める治療で自然に元に戻ることがあります。
何度もおう吐してしまう患者さんに対してはお鼻から胃に管を入れて(胃管)溜まっている腸液を外に出してあげることで大分楽になることが多いです。しかし、お鼻から管を入れるのも人によってはとてもつらいので、どちらが良いか先生とよく相談する必要があります。胃管を一度入れてなかなか外せなくなった患者さんには最近では胃瘻といってお腹から胃に直接管を入れる方法もあります。この方が管による苦痛は少ないでしょう。
症状緩和には当然薬物を用います。以下のような薬剤を使用します。
・吐き気に対して:セレネース、ブスコパン、ハイスコ、プリンペラン、
リンデロン、サンドスタチン
・疝痛に対して:ブスコパン、ハイスコ
こういった治療は在宅でも可能ですので、腸閉塞があるからと言って自宅で過ごすことは無理ということはありませんのでご安心ください。
院長 前野 宏