第22回 だるさ(全身倦怠感)—「だるい」は大阪弁で「しんどい」、北海道弁で「こわい」です−
2013-05-22
終末期がん患者さんの多くは大なり小なり「体がだるい」という症状を訴えられます。タイトルにも書きましたが、「体がだるい」という症状は非常に不思議なことに地域によって用いる言葉が異なるようです。私は大阪と名古屋で医師として仕事をした経験がありますが、大阪ではほぼ100%の方が「しんどい」、名古屋では「えらい」と表現されていました。これは笑い話ではないのですが、北海道生まれの私の親戚が、東京でがんになって終末期を迎えた時に、看護師さんに「こわい、こわい」と言ったら、「何が怖いのですか?」と言われ、通じなかった。ということでした。しかし、「だるい」は私の経験ではどの地域でも通じるようです。
一方、英語でも「だるさ」を表す表現は一定していません。一般的には”general fatigue”と言うようですが、”lack of energy”、”asthenia”などと言うこともあるようで、どうも一定していないようです。今日は、言語学の講義をしている訳ではないので、これ以上追求することは止めることにしますが、「だるさ」を表す表現がたくさんあるのは、表現しているニュアンスが実は微妙に異なっているのかもしれません。
ここでは、一般的に「だるい」という症状についてお話ししましょう。
「だるさ」は医学的に言うと「全身倦怠感」と同じです。従って、「だるい」は「全身倦怠感を感じる」ということになります。
1)「だるさ」の原因
「だるさ」の原因は色々と考えられます。まず、がんが全身に広がることにより、がんの成長に栄養分が取られてしまうことと、がん自体が放出する物質(サイトカイン)が体に悪影響を与えて倦怠感を感じさせます。こういった病態を医学的に「がん悪液質症候群」と呼びます。
「だるさ」が起こる他の原因としては、「貧血」、「脱水」、「腎不全」、「肝不全」、「呼吸不全」、「心不全」、「感染症」、「抑うつ」、「不眠」などもあります。これらは直接「がん」の影響ではありませんが、間接的にはがんの影響があることが多いのです。
多くの場合、がん患者さんの終末期に出現する「だるさ」を完全に取り除くことは出来ません。なぜなら、がんの広がりが根本的にあるからです。
2)「だるさ」の治療
今までの治療の原則と同様ですが、「だるさ」の原因がはっきりとしていて、それを改善できるのならば行います。例えば、感染症なら抗生剤による治療。貧血が原因ならば「輸血」という手段もあります。しかし、多くの場合、終末期がん患者さんの「だるさ」の原因を見つけて、それを解決することは困難なことが多いのです。
そういった場合には、薬剤によって治療します。ここでは、「ステロイド」というお薬を用います。薬品名としては、リンデロン、デカドロン、プレドニンなどが良く用いられます。これらの薬の効果は、「だるさ」が改善したり、「食欲不振」が改善したりしますが、効果の持続期間は比較的短いので、どの段階でステロイドを使うかは緩和ケア経験の豊富な医師の指示の元に行われるべきです。ステロイドについてはあとのお話しにも出てきますが、がん患者さんにとっては「魔法の薬」と言っても良いくらいに大活躍します。後ほど、その大活躍ぶりをご紹介いたします。
院長 前野 宏
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