第25回 たかが便秘されど便秘
2013-07-22
どなたでも大なり小なり便秘で不快な思いをされたことがあると思います。便秘はがん患者さんにとっては大敵です。がん患者さんの病状が進み、水分摂取が減り、体の動きが少なくなってくると便秘はほぼ必ず起こります。そして、時に非常に不快な症状になります。以前お話しした「せん妄」が起こり、患者さんがとても不穏(極めて落ち着きが無くなる状態)になっていたのが、溜まっていた便を出したところせん妄が収まったということは時々経験することです。「たかが便秘、されど便秘」なのです。ホスピスナースの一番の仕事は患者さんの便通をいかに整えるかであると言っても良いかもしれません。
1)便秘の原因
便秘はどうして起きるのでしょうか。病気に関連するものとしては、病気がお腹にも広がることで便が通過しにくくなる場合や排便に関わる神経が障害される場合などがあります。また食事量や水分量が減り、活動量の低下や環境の変化などといった病気に関連して起こるものもあります。さらに医療用麻薬やその他の薬剤によって起こる場合もあります。そしてがんとは全く関連しない元々の疾患や体質などによるものなどもあります。更に悩ましいことに、がん患者さんにとっての便秘は、1つの原因だけではなく複数の原因が絡み合うことがあるため、非常に複雑です。
2)便秘原因に対する治療
がんの症状緩和においては、症状がおこる原因や病気の状態を把握した上で治療や対応を行うことが大切ですが、便秘についても同じです。腸の閉塞がある場合は胃管の挿入(胃の中に管を入れて溜まった腸液を出す方法)や手術による人工肛門の造設(便を出すための通り道をお腹に造る方法)を検討します。代謝などが障害され、特に高カルシウム血症(血液中のカルシウムの値が上昇した状態)による便秘などがある場合は、それに対応する薬剤を投与することもあります。又、薬物の副作用が考えられる場合は、原因となる薬物の減量・中止もしくは変更を検討することが必要ですし、医療用麻薬を使用する時は予防的に下剤を使用することが重要になります。
3)便秘の対処法
前述のような原因に対する治療の他に、もっと身近な便秘の対策についてお話ししたいと思います。スムーズな排泄の工夫として、ウォシュレットを使い適度に刺激することが欠かせないという方がいます。人それぞれの排泄習慣や工夫があり、それらもとても大切な対処法です。病院では便秘に悩まされていたけれど、自宅に帰り自家製のヨーグルトや毎日欠かさず飲んでいた乳飲料などを摂ることで排便リズムが整う方。病室内では傍に人が居ることやゆっくりとトイレを使えないことで便秘になるけれど、自宅では排便がスムーズになる方など便秘に対する対処法は様々です。
4)下剤による調整
しかし、実際に便秘になってしまったら、薬剤(下剤)による調整が必要となります。元々の排泄習慣、排便に関して工夫している内容などを医療者に説明し、医療者のアドバイスに沿って、自分に合った上手な下剤の調整方法を見つけ出していくことが良いでしょう。特にモルヒネなど医療用麻薬を使用している時には、副作用である便秘にならないように予防的に排便コントロールを図ることがとても重要です。多少下痢気味であっても下剤を中止するのではなく減量するなど、日々細やかな調節を医療者と二人三脚で行いましょう。
5)便秘への対策(まとめ)
もう一度、便秘についておさらいしましょう。
1.下剤の調整は排便の状態に合わせて行います。
① 便が軟らかい場合は、腸の動きを強めるための薬(大腸刺激性下剤:ラキソベロンやプルセニド等)を使用します。
② 便が硬い場合は、便を軟らかくするための薬(緩下剤:酸化マグネシウムやラクツロース等)を使用します。
③ 便が直腸内まで下りているときは、排便を促す座薬を使うことがあります。
④ 便がなかなか降りてこない場合は、浣腸を使用することもあります。
2.食事の工夫として可能な範囲で水分摂取を心がけること、腸蠕動を促す食事(繊維質が多いもの等)を摂るのも良いでしょう。
3.お腹のマッサージや温めることも効果があります。がんがお腹にある場合は直接的な刺激を避けた方が良い場合もありますので、必ず医療者に相談してください。
4.落ちついて排泄できる環境の調整も大切です。歩くことが大変になってきたとしてもトイレへの移動方法を工夫することやポータブルトイレを使用するなど、腹圧をかけやすい体位をとることも良いと思います。
5.様々な対応を行っても自然に排便がみられず、まだ便が残っているような場合には医療者に適便(指を使って直腸に溜まった便を排泄する方法)をしてもらうことがあります。
便秘は、がんに限らず多くの方が抱える症状のため、“たかが便秘”と考えがちですが、付き合い方によってはがん患者さんを苦しめる症状になりかねません。“されど便秘”ということを念頭におき、医療者とよく相談しながら、その時その時の身体の状況に応じた対応をしていくことが肝要だと言えます。
看護主任 梶原陽子
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