第26回 気持ちのつらさ
2014-04-01
私たちは日常的にちょっとしたことで不安になったり気分が落ち込んだりします。それがひどくなると食事が取れなくなったり、仕事が手に付かなくなってしまうこともあります。しかし多くの場合、こういった「気持ちのつらさ」は一時的で、また日常生活に戻ることができるものです。特に「がん」という病気を伝えられた時や治療したのに病気が再発し、病気が治ることがないと分かった時の様に深刻な状況では、気持ちのつらさが強くなるのはある面で当然のことです。周りにいる人はあまり深刻に考えすぎず、そっと温かく見守ることが大切です。しかし、場合によっては「死んでしまいたい」といった深刻な状態になってしまうこともありますので注意深く接することが大切です。
1.患者さんの気持ちのつらさはどのようなことに現れますか?
多くの場合、患者さんの言動の変化に現れます。
・口数が少なくなる(じっとしてふさぎ込んでいる感じが強くなる)
・食欲が落ちてきた
・好きだったテレビや読書、新聞などに興味を持たなくなった。
・眠れないことが多くなった
というようなことが見られたら「気持ちのつらさ」が強くなっているのかもしれません。
2.そのような時に周りの人はどう対応したら良いですか?
最初から特別なことをしようと思わなくても結構です。まずは暖かく見守ることが大切です。次に、何か心配(不安)があるようでしたら次の様に問いかけると良いでしょう。
「最近、気持ちがつらそうに見えるけれど大丈夫?」
「気持ちをつらくしていることが何かあるの?」
「病気のことで何か心配があるの?」
この様な質問は、「開かれた質問」と言って相手が自由に答えることができるので好ましいでしょう。
患者さんが
「病気のことが不安。」
「もうダメなんじゃないか、って思う。」
「このままどんどん弱ってゆくのかな。」
というような弱気なことをお話しするかもしれません。このような発言を聞くと聞いている方はどきっとします。しかし、患者さんがこのような否定的で弱気な発言をした時に大切なことは、まずじっくりと落ち着いてお話を聴いて上げることです。
「そうなんだ。・・・がつらかったのね。」
「それはつらかったね。」
場合によっては「うん、うん」とうなづくだけでもいいでしょう。まずじっくりと相手のお話に耳を傾ける、一生懸命聞いて上げることが何よりも大切です。
良くないのは、聞いている方が慌ててしまって、「何言ってんのよ。」「そんなことないわよ。」「大丈夫、大丈夫」などとその場しのぎの安易な励ましの言葉を言ってしまうことです。そうすると、患者さんはそれ以上、弱音が吐けなくなってしまいます。患者さんにとって弱音を吐けるということはとても大切なことなのです。多くの場合、患者さんは答えを求めているのではなく、弱音を聞いてもらえたことで大きな満足感、安心感を得ることができます。
3.「気持ちのつらさ」が強く、長引く場合にはどうしたらよいですか?
患者さんの気持ちのつらさが強くまた長引く場合には、訪問診療の医師や看護師に相談して下さい。不安に対しては抗不安薬、不眠に対しては睡眠剤、気持ちの落ち込みに対しては抗うつ薬が効果のある場合があります。医師の判断によっては、まれに専門医である精神科の医師に相談する必要がある場合もあります。家族だけで抱え込まず気楽に医療者に相談して下さい。
院長 前野 宏
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