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第3回 北海道の在宅死-北海道の在宅死の割合は全国最下位-

2012-12-21

 2009年(平成21年)にがんで亡くなった日本人は約34万5千人でした。そのうち在宅で亡くなった方は約3万人でした。(図1)割合としてはがんで亡くなった方の8.6%に過ぎません。この数字は、前回に示したアンケート(「(あなたががんになって)余命が限られている場合、自宅で過ごしたいか」)の中で、8割の方ができれば家で過ごしたい、と回答したのに比べてあまりにも少ない数字です。ところが、北海道はと言うと3.5%で、全国平均の約3分の1であり、残念ながらダントツの全国最下位です。
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(図1)わが国のがん患者在宅死亡数の変化(「在宅」には自宅の他、老人施設も含む)

 何故、北海道の在宅死が少ないのか、その理由はよく分かりません。「北海道は広くて、十分な医療が提供できないから」といった理由が思いつきますが、札幌の数字を見ても北海道とほとんど同じということを考えるとその理由では説明がつきませんし、同様に広い県である岩手県は7.7%、長野県に至っては11.3%と全国平均を大きく上回っています。また、「北海道は寒冷地だから」というような理由もすぐに思いつきますが、やはり寒冷地の県である青森県は7.0%です。こうしてみると、地理的要因や自然・気候などでは十分に説明が付きにくいようです。

 そうなると、私としてはあまり考えたくない理由なのですが、北海道民の人間関係、特に家族関係に一つの原因があると考えざるを得ないのです。ある方が末期がんになって自宅で過ごす場合、病院に入院していればその方のお世話は看護師などの病院のスタッフが行いますが、その方が自宅で過ごすとなると、患者さんのケアをするのは一般的にはご家族です。患者さんが終末期になると食事、排泄、入浴などの日常生活の介助が必要になります。

そういったお世話が必要になる期間は必ずしも長くはないのですが、慣れていない方にとって大きな負担になります。そして、患者さんの病状が悪化し、苦痛な症状が出現した場合には精神的にも緊張を強いられるようになります。そのような大変な介護を後押しするのは、家族愛です。それは無償の愛とでも言えるものです。私達在宅緩和ケア(在宅ホスピス)に携わっているスタッフはしばしば御家族の無償の愛を目の当たりにし、驚きそして感動させられます。けっしてだれでも簡単にできることではありません。

 しかし、必ずしも在宅で患者さんのケアをしている全ての御家族が素晴らしい無償の愛によって行動しているかというとそうでもないと思います。例えば、本州であれば古くから存在する「家」という形式の中で家族関係も影響を受けます。2世帯が同居しているとすると、嫁が末期がんになった舅のお世話をすることは当然のことと見なされることがあるかもしれません。それは嫁が心から希望して行っているとは必ずしも言えないでしょう。

そういう意味では、北海道は古い「家」という形式にとらわれることが少なく、嫁がいやいや舅の世話をすることは少ないのかもしれません。嫁、舅の関係ばかりでなく、北海道の家族関係は「内地」に比べると淡泊であると言われています。北海道の離婚率が全国一位なのもそういったことから来るのかもしれません。このような家族内の淡泊な人間関係が北海道の在宅死を少なくしているといった理由は純粋な道産子の私としてはあまり考えたくないのですが、他に理由が見当たらないので困ってしまいます。読者の方で他の理由が思い当たる方がいたら是非教えて頂きたいものです。

                             院長 前野 宏

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