第5回 緩和ケアとは何か?
2012-12-28
今回は「緩和ケア」とは何かということをもう少し詳しくお話ししたいと思います。「緩和ケア」という言葉が登場したのは1980年代で、それ以前は「ホスピスケア」とか「ターミナルケア」と呼ばれていたということは前回お話ししました。
「緩和ケア」の定義としてはWHO(世界保健機構)のものが一般的です。
「緩和ケアとは、治癒を目的とした治療に反応しなくなった疾患を持つ患者に対して行われる積極的で全体的な医療ケア(active total care)であり、痛みのコントロール、痛み以外の諸症状のコントロール、精神的、社会的、霊的問題が重要な課題となる。緩和ケアの目標は、患者とその家族にとって最高のクオリティ・オブ・ライフ(QOL) を得ることである。緩和ケアの多くの面は、疾患の初期の段階から制癌療法と共に応用されうる。」(WHO 1990)
この定義は2002年に改訂されて以下のようになりました。
「緩和ケアとは、生命を脅かす疾患による問題に直面している 患者とその家族に対して、疾患の早期より痛み、身体的問題、 心理社会的問題、スピリチュアルな(霊的な・魂の)問題に関し てきちんとした評価をおこない、それが障害とならないように予防したり対処したりすることで、クオリティー・オブ・ライフ(生活の質、生命の質)を改善するためのアプローチである。」(WHO 2002)
この二つの定義はとても似ています。共通する点としては
・緩和ケアの対象となるのは患者ばかりでなく、家族も含まれる
・緩和ケアの目的は、患者の全人的苦痛、すなわち、身体的、精神的、社会的、そしてスピリチュアルな苦痛を緩和することである
・緩和ケアの目標は患者及び家族のQOL(生活の質、生命の質)を改善することである
ということになります。
しかし、一番大きな違いとしては最初の定義では「治癒を目的とした治療に反応しなくなった疾患」すなわち、「終末期」という意味合いが強かったのですが、後の定義ではその部分が変わったということです。すなわち、緩和ケアの適応となるのは終末期だけではなく、治療中からであるということが強調されているのです。
歴史的にはわが国では緩和ケアはまず病院の中で始まり、「緩和ケア病棟」という形で広がりました。わが国の緩和ケア病棟の第1号は1981年、静岡県浜松市にある聖隷三方原病院の中に「聖隷ホスピス」として誕生しました。そして、1984年、大阪の淀川キリスト教病院に国内で2番目の病棟が作られました。しかし、当時は、「緩和ケア病棟」が保険診療の中で認められていなかったので、「緩和ケア病棟」は月々100万円くらいの赤字運営を強いられるのが当たり前のような状況でした。しかし、環境が大きく変わったのは淀川キリスト教病院の柏木先生達の努力のお蔭で、1990年に診療報酬の中で「緩和ケア病棟入院料」が設定されてからです。
それ以降、緩和ケア病棟は日本中に広まり、現在は全国で200箇所以上にまで増えています。そして、2002年に診療報酬で「緩和ケア診療加算」が認められて、いわゆる「緩和ケアチーム」ががん治療病院に広がりました。そして、2007年に後から述べる「がん対策基本法」が施行され、その中でがん治療病院には緩和ケアチームが必ずなければならないことがうたわれてから、緩和ケアはまた一段と広まりました。
それでは、緩和ケアはどのようにして提供されるのでしょうか。それを一言で言うと「チームケア」として、ということになります。次回は、そのことについてお話ししたいと思います。
院長 前野 宏
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