第55回 在宅死 -家で看取るということ-
2014-06-04
多くの方は「末期がんの患者を家で看取る」なんてとてもできない。と考えておられます。しかし、十分それは可能です。
Q.1 「在宅死」の良さを教えて下さい
私たちが在宅ホスピスを提供した患者さんに「どうして家で過ごすことを希望されたのですか。」と尋ねると、「家は自由です。」「気兼ねしなくて良い。」「わがままできる。」「一番自分らしくいられる。」等という答えが返ってきます。
最近のお宅ではほぼ半数くらいに犬や猫と行ったペットがいます。中には私の苦手な爬虫類を飼っている方もいます。家に帰りたい理由がペットがいるからという患者さんも少なくありません。
要するに患者さんが家に帰りたい理由は特別なことではありません。日常生活を今までと同様に送りたいという願いだと思います。
最近非常に増えた緩和ケア病棟(ホスピス)はとてもアメニティの良い施設が増えています。しかし、どんなに立派で素晴らしい施設でも、患者さんの完全な自由はありません。施設の決まりは守らなければなりません。例えば、消灯時間や禁煙など。そして、個室であってもあまり大きな声や音を出すことは控えなければなりません。ペットを連れてきても良い施設もありますが、そこでワンワン鳴く犬を飼うことは不可能でしょう。要するに、病院では患者さんは大なり小なり「我慢(patient)」を強いられます。家の最大の良さは「我慢しなくて良い」ということではないでしょうか。
Q.2 「在宅死」の難しさはどんなことですか?
がん患者さんが最期まで家で過ごすことが困難な理由は第11回に書きました。すなわち、
①家族に(精神的、肉体的、経済的な)負担をかけるのではないか
②家にいると必要な時に必要な医療が受けられないのではないか
③入院が必要になった時、すぐにできないのではないか
といったことでした。つまり大きく分けると、「家族の問題」と「医療の問題」になると思います。
「家族の問題」は、ほとんどの方が家で家族を看取った経験がないことから来ています。つまり、経験がないので不安が大きいのです。しかし、経験の無さは知識で補うことができます。この連載の目的はまさにそのことです。このWEB講座を読むことにより、ご家族の経験の無さはかなり補うことができると思います。
「医療の問題」は、地域で終末期患者さんを支えるために地域ぐるみで対応しなければならないテーマです。都市部、郡部など地域によって非常に大きな違いがあります。地域の強みを生かし、弱いところを補う努力が求められます。しかし、在宅医療は我が国において喫緊の問題です。国を挙げて取り組みつつありますので、状況が急速に改善することを期待します。
Q3. 「在宅死」は可能ですか?
在宅ホスピスを開始した時点で「最期は家で死にます。」とはっきりおっしゃる方は非常に少ないです。大部分の方は「できるだけ家にいたいが、最期は家族に迷惑がかかるので入院でも良い。」とか「最期までは難しいと思う。」とおっしゃいます。
私は在宅死を最初から目標にしなくても良いと思います。何が何でも家で最期を迎えるのだと考えるとかなりしんどくなってしまいます。もっとリラックスして考えて頂いても良いのではないでしょうか。大切なことは「できるだけ家で過ごしたい。」という希望です。これだけで十分だと思います。その思いで在宅ホスピスをスタートすると、患者さんもご家族も「やはり家はいい」という思いが強くなり、そのうち、ご家族もケアに段々自信が付いてくるものです。そうなればしめたもので、そのうち「家にいるのが当たり前」という雰囲気になり、結果として在宅死になるのです。つまり、「在宅死」は「家にいたい」という強い思いの自然な結果なのです。中にはご家族が心身共に負担が強く、それ以上在宅でのケアを続けられないことがあります。その場合には入院をすれば良いのです。家族が患者を入院させてしまい、後悔の念を持つことがないように、「在宅でも入院でもどちらでも良いのだ」と考えることが大切です。
院長 前野 宏
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