第6回 緩和ケアはチームケアである-一体となったチームアプローチとは-
2013-01-08
前回のお話しでは、緩和ケアとはどういうものかということをお話ししました。すなわち、緩和ケアの最も重要な働きは患者さんと家族の苦痛(全人的苦痛)を緩和することです。それでは、そのために緩和ケアはどういう手段を取るのでしょうか。 それは「チームアプローチ」です。最近、医療のどの分野でも「チーム医療」が強調されます。昔のようにオールマイティの素晴らしい医師がいれば最善の医療が提供されるということは今ではありえません。いろいろな職種のプロフェッショナルがそれぞれの専門性を発揮して医療を提供することが当たり前になっています。そして、チーム医療の典型が緩和ケアにおけるチームアプローチです。なぜなら、緩和ケアにおけるチームには様々な職種のスタッフが含まれるからです。(図1)に在宅緩和ケアにおけるチームアプローチを図示してみました。実に多くの職種の方々が関わっていることが分かるでしょう。
図に示されているそれぞれの職種の働きについては連載の中で後ほど説明したいと思います。ここで知って頂きたいのは緩和ケアにおいてはたくさんの職種の方が関わるということです。これは図に示した在宅緩和ケア(在宅ホスピス)だけではなく、緩和ケア病棟でも一般病棟における緩和ケアチームの場合にも当てはまります。ただし、病院の場合は医療保険だけですから、関わる職種は在宅の場合より少なくなります。
それでは、緩和ケアにおいては何故多くの職種の参加が必要なのでしょうか。それは、末期がん患者さんとご家族には解決しなければならない多様な問題があるからです。ある患者さんは自分の体のことより家族の経済的なことが大きな心配の種だったりします。このような患者さんには体だけ診る医師や看護師の関わりだけでは不十分でMSW(医療ソーシャルワーカー)といった専門職のスタッフが良い関わりをしてくれることが多いです。
それでは多くの専門職が集まれば良いケアが出来るかというと必ずしもそうではありません。勿論、それぞれの分野で優秀なスタッフを揃えることは大切なことですが、それだけでも十分ではありません。大切なことはそれらのスタッフがチームとして“一体となった”働きをすることができるかということです。”良いチームワーク“と言っても良いかもしれません。
プロ野球の日本ハムファイターズはどこかの球団のように高い年俸によって有名な選手を他チームやアメリカの大リーグから引っ張ってくるようなことはしません。それは、日本ハムにはあまりお金がないのでそういったことをやりたくても出来ないのです。それでも日本ハムが常にそこそこに強いのは”良いチームワーク“があるからです。
緩和ケアにおいても同じことが言えます。良いチームワークすなわち”一体となったチーム“で大切なことはチームのスタッフが同じ価値観(マインド)を共有することです。チームメンバーが同じ価値観、哲学を共有できればそれぞれが自分の力を十分に発揮することでチームとして素晴らしいパワーを生み出すことが出来ます。しかし、そうでないとお互いの力が相殺してしまい、チームとして力を発揮することが出来ません。
私は緩和ケアにおける共有すべきマインドのことを「ホスピスのこころ」と呼んでいます。次回は「ホスピスのこころ」についてお話しします。
院長 前野 宏
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