第9回 在宅緩和ケア(在宅ホスピス)が広がるために-がん対策基本法-
2013-01-21
第7回のお話しの中で欧米におけるホスピス・緩和ケアの歴史を少しお話ししました。そこで今度はわが国におけるホスピス緩和ケアの歴史についても少し触れておきましょう。
(表)わが国のホスピス緩和ケアの歴史
1973年 淀川キリスト教病院でOCDP(末期がん患者の多職種カンファレンス)始まる
1981年 聖隷三方原病院に我が国最初のホスピス施設開設
1990年「緩和ケア病棟入院料」が健康保険に診療報酬として認められる
1991年「全国ホスピス・緩和ケア病棟連絡協議会(現在、日本ホスピス緩和ケア協会)」設立
1997年 ホスピスケア、がん疼痛看護師などの認定看護師の認定開始
2002年「緩和ケア診療加算」が病院内緩和ケアチームを対象に認められる
2006年「在宅療養支援診療所」が診療報酬で認められる
2007年「がん対策基本法」が施行される
この表を見て分かるとおり、わが国の緩和ケアは主に病院で広がってきたということが分かると思います。(2006年に「在宅療養支援診療所」が診療報酬で認められましたが、これは必ずしも緩和ケアに限ったものではありません。)この年表の中で今回特に注目したいのが2007年に施行された「がん対策基本法」です。この法律は、わが国のがん治療が病院間でレベルの差があったり、欧米で認められている新薬がなかなか承認されなかったりというような問題が患者団体から指摘されていたのを受けて、政府が法制化したものです。つまり、日本中どこの地域においても同じようなレベル(標準的)の治療を受けることが出来るようにするための法律で、かなり画期的なものだと思います。
この法律のいくつかの柱の内の一つが緩和ケアです。がん患者さんは治療中からいろいろな苦しみ(全人的苦痛)を持つことが多いので、病気の初期の段階から緩和ケアを提供することががん治療病院に義務づけられています。そして、がん患者さんが過ごす場所についても以下のように述べています。
がん対策基本法(抜粋)
第二節 がん医療の均てん化の促進等
(がん患者の療養生活の質の維持向上)
第十六条 国及び地方公共団体は、がん患者の状況に応じて疼痛等の緩和を目的とする医療が早期から適切に行われるようにすること、居宅においてがん患者に対しがん医療を提供するための連携協力体制を確保すること、医療従事者に対するがん患者の療養生活の質の維持向上に関する研修の機会を確保することその他のがん患者の療養生活の質の維持向上のために必要な施策を講ずるものとする
下線に示したとおり、がん対策基本法の中でがん患者さんが自分の住んでいるところで療養が出来るような体制を確保することがしっかりと唱われています。国の法律で、在宅緩和ケアを推進することがはっきりと述べられたということはとても重要なことです。この法律が施行されてから、少しづつではありますが、在宅緩和ケア(在宅ホスピス)が広がりつつあることを実感しておりますが、今後はこの法律に則って現実的で具体的な制度が整備されることがさらに在宅緩和ケア(在宅ホスピス)が充実するために必要であると思います。
さて次回は、在宅緩和ケア(在宅ホスピス)と病院の緩和ケアについてお話ししましょう。
院長 前野 宏